運命なんてありえない(完結)


スコアボードを見ると前半残り5分というところで点差はトライ1本分


「日下さん!」

前方から呼ぶ声に顔を上げると、吉野さんが手を上げ場所を示してくれている

隣に高梨様がいて、吉野さんのもう片方の反対側が2つ空いているから恐らくあそこで間違いない


なんとか人の波を掻き分けたどり着く

「遅くなってすいません。あの…大也くんは…」
肩で息をしながら問う


「佳香から伺ってます。酒井くんは今日は執拗なマークにあってて苦しそうです」


吉野さんの冷静な分析に思わず柵から身を乗り出す

前半残り僅かで大也くんに回されようとしている味方からのチャンスボール


迷わず大きく息を吸い込む




「11番走れーー!!」




大也くんにボールが渡った瞬間に会場中が息をのみ静まった一瞬に私の声が響く



ボールを脇に抱え更にスピードを上げる大也くんに敵チームでまともにタックルを当てられる人はいなかった


敵を全員振り切り、ゴールエリアのど真ん中に回り込みトライをし、ガッツポーズを決める大也くんに会場中から歓声があがる


ふぅと息をつき席に座ろうと振り返ると何故が真横で私に向けられていたテレビカメラに『?』マークしか浮かばず首を傾げ高梨様を見る


「今シーズンうちのチームを追ってるテレビの特集のカメラです。先ほど社長がもうすぐ酒井くんの彼女が来るって口を滑らしていました」

目を逸らす高梨様に代わり吉野さんが説明を入れる
なんてスキャンダルを与えてやがるんだ…


その横でオヤツを頬張る佳香が目に入り、駆け寄る

「佳香、荷物ありがとう」

「いえいえ〜お易い御用ですよぉ」



試合はトライの後のキックも決まり、高梨グループが2点リードで前半を終えた。