「それからは必死。社長に全部話して、社長の信頼得るためにラグビーでも通常業務でも結果残して、1年かかってやっと社長がチャンスを作ってくれたんだ」
大也くんが姿勢を正すので釣られて私も背筋を伸ばす
「日下杏さん、俺と結婚を前提に付き合ってください」
真剣な眼差しで真っ直ぐに伝えられる言葉
『結婚』という言葉をきっと大也くんは敢えて使った
バツイチで暗黒時代を経験した私に、それだけ真剣であると示す為に
あのグランド横の道路で助けられた出会いも、今日の撮影も全部、偶然なんかじゃなく仕掛けられた罠だった
大也くんのことを正直まだ全然知らない
それでも
この心臓が、体が全身で反応する
それが答え
「はい」
真っ直ぐな大也くんの瞳に真っ直ぐに返事をする
「やったーー」
歓喜の声は大也くん…ではなくカウンターの奥で見守っていた女将さんだった
「ちょっと女将さん!それ俺のセリフ!」
思わず突っ込まずにはいられなかった大也くんに小さな店内に笑いが溢れる
大将と女将さんから祝福を受け、落ち着いた頃に私の荷物を手に持って「帰ろっか」とまた手を出してくれる
そんな些細なことでも私の心臓は『嬉しい』のだと反応する……これは慣れる日がくるのだろうか
手を握ると嬉しそうにする彼を見ると、そんな日はこなくていいと思える
「今日はお祝いで奢ってやるからまた2人で来いよー」
なんて粋なことを言ってくれたので、お言葉に甘えてご馳走になることにし、礼を行って店を出る
すっかり日の暮れた街をふたり並んで、手を繋ぎ家までの道のりを歩く
もちろん今度は恋人繋ぎで
あーこんな事ならもうちょっと駅から遠い家にするんだった
なんて内心思いながら…