残念男が出ていき、静まり返る店内
「はい、今日の煮物と焼き魚ね〜」
女将さんがお料理を運んできた里芋とイカの煮物と鰆の塩焼き
「こーんなべっぴんさんが絡まれて何事かと思ったけど、久しぶりに大笑いしたわぁ」
あっはっはっはーと笑いながら奥へと戻って行く
「食べましょ?美味しいですよ」
そう言って酒井くんがお箸を渡してくれる
「うん、酒井くんさっきはありがとう」
お箸を受け取りお礼を言う
酒井くんがさっき残念男に言った言葉は少なからず暗黒時代に囚われていた私の心を軽くするものだった
「大也」
受け取ったはずのお箸が自由にならないと思ったら酒井くんが離していなかった
「大也って呼んで?」
またも悪魔な微笑みで下の名前で呼べという高度なお願いをしてくる
「……大…也……くん」
赤くなっているだろう顔を俯かせながら呼び捨ては無理だと判断した脳ミソが辛うじて『くん付』で呼ぶ
「はい、どうぞ」
出てくる料理はどれも美味しくてお酒にもよく合った