グランドを見ると後半戦がすでに始まっていた

「状況は?」

カメラを構える佳香に聞く


「酒井くんがさっき3回目のトライしたとこです」

ピンポイントで欲しい情報だけくれる佳香



「それで、11番は何だったんですか?」


試合を見ながら佳香に5年前のことを説明する。




5年前ラグビーの練習試合を撮っていた時に1人目立つ子がいたこと。

見るからに体格が出来上がっていない入学したばかりの子だとわかるほどの差なのに、ダントツのスピードで相手プレーヤーをかわし、トライを次々と決めていく選手がいた。


それが『11番』


でも後半になるとマークもキツくなってきたのと、試合時間も高校より長いこともありトライが決まらなくなっていった
味方からのパスに足が追いつかないこともあった
試合も逆転されて、終了間際にあと1回トライとキックがあればって時にチャンスが来たのに動けていなかった彼に「11番走れー!諦めるなー!!」って思わず叫んでしまって…
咄嗟に逃げたのだけど、遠くで聞こえた歓声からして勝ったのかなって思う。11番の彼は最後の力を振り絞って華麗に走ったに違いない




今、目の前のグランドで走り回っている11番は当時のあどけなさは消え、鍛えられた体で速いだけじゃなく力強く華麗に舞っているようだ




後半戦半ばで4本目のトライを決めた彼は、終了直前にもう1本トライを決め、こちらに向けてVサインをする
レギュラー陣が一斉に酒井くんに駆け寄りタックルをかまし次々に上に乗っかっていく




紅白戦が終わり、クールダウンをしたら練習を終えるということで、私達も再びグランドへ下りていき、選手の方々に挨拶をして、酒井くんにスパイクを返却し、高梨様と吉野さんのいる視察室へ向かった




コンコンコンとノックを3回して入った視察室には高梨様の姿はなく、吉野さんだけが窓際の椅子に座っていた


吉野さんは立ち上がりこちらを向く
「本日は1日お疲れ様でした。社長は日下さんが何か思い出せたようなので先に帰ると申しておりました。」


「そうですか。では明日中にはデータをお送りしますのでお伝え願えますか」


「かしこまりました」


そんなやり取りをして、1階まで降りるとすでに選手の人は自室へ戻ったそうで、キャプテンが1人残っており、酒井くんはあと5分くらいで戻ってくるから座って待っていてほしいという伝言を残しクロの待つ自室へ戻って行った


すぐに酒井くんも下りてくるようなので、吉野さんと佳香には先に帰ってもらい1人ソファに腰掛け待つことにした