「名前…呼んだけど、悪い?」


黒澤くんは少し拗ねたようにそっぽを向く。


耳がほんのり赤く染まっていた。


「悪く…ない…っ。」


涙がじんわりと目頭に溜まる。


どうしよう、泣きそう。


「そんぐらいで泣くなよ。

めんどくせぇ。…嫌なわけ?」


私が唇を噛み締めているのを見て黒澤くんが大きなため息を溢す。


…めんどくさい女って思われた?


「うう"っ…嫌なわ…けない…っ。

むしろ…グスッ…ううっ嬉しい…っ。」


私がそういえば目を丸くする黒澤くん。


こんなにも嬉しいことはない。


あの黒澤くんが名前を呼んでくれたんだよ?


私、今幸せすぎて死んじゃうかも。


「ふっ、名前で呼ばれたぐらいで泣くなんてやっぱ変なやつ。」


私の頬に流れる涙をソッと指で拭いてくれる黒澤くん。


そんな優しいところも含めて君が好き。


「ううっ…うれ…し泣き…だよっ。」


「にゃー」


私の頬をペロッと舐めるココア。


ふふ、かわいい。


人は本当に嬉しいとき涙を流すんだと知った瞬間だった。