ふっきれたように笑う健吾さんに、私の力もふと抜ける。


「まさかこっちが逃げられないギャンブル叩きつけてくるとは思わなかった……してやられたなぁ」


あああー!

なんて伸びをして、私の方に再び向き直した彼は


「賭けるよ。俺がアイドルになれる方に」


とはっきりと言葉にした。



「……わかりました。なら賭け金は前払いします。そしてお金の為に、仕事は疎かにしません。私も精一杯やるので健吾さんも」


「……トップアイドルになる」


話の途中でぴしゃりも切られたので思わず動きが止まる。


トップアイドルになるって言った?
いま……



「アイドルなんて誰にもなれるっしょ。なるならトップアイドルになるから。」


いきなり自分でハードルを上げてきたじゃないか。だけど健吾さんの目は、決して茶化しているような雰囲気ではなくて、本気でそうなろうとしている様にとれた。



「…わかりました……」


「心優ちゃんもなれる方に賭けてよ」


「…え?それじゃあ賭けになりませんけど」


「…トップアイドルになれるかどうかにもう一度300万賭けて。なれた時は返すから」




どうやら……私が思っているよりも彼はクズではないのかもしれない。さすが年上だと言いたくなるくらいしっかりした考えの持ち主じゃないか。



「わかりました…賭けます」


「ん。これからもよろしく。マネージャー」



お互いに拳を作って、コツンと合わせる。


また1人心を動かせたという達成感はなんだろうか。私って結構こういうの好きなのかも。



みんなを呼び戻して、帰ってきたあと


「…心優ちゃんとの賭けに勝ったからここに残る」


という伝え方をしてもらった。



これでいい。
健吾さんの存在はこいつらに安心感を与えるだろう。



「…それはわかったけど、健ちゃん。みゆちゃんの肩に手を置かないで」


「凛太郎……睨むな睨むな。俺とマネージャーは賭けというもので繋がったんだ」


「……みゆちゃん……」


「いや、凛太郎くん怖い怖い!!」



ものすごい顔で私を見つめる顔に恐怖さえ覚えた。これはどうやら逃げるが勝ち



「せ、せっかくだしご飯食べよっか。お寿司でも取ろう!私電話してくる!!」




残りのやつらも……アイドルになりたいと情熱を持たせればいい。……気が遠くなりそうだけど



そんなことを思いながら私は、スマホで近くのお寿司屋さんを探しながら事務所の外に出た。







「……ギャンブルやめんのか。お前」


「…いやいや。わかってるでしょ…蓮斗。馬くらいはちょっと。練習には真面目に出るから大丈夫。それにさ…」



「……なんだ」



「心優ちゃん……良くない? 俺賭けの話してる途中妄想の中で、ストッキング破いたわ。いや、足のラインとかも好みかも。もっと叱られたい。内緒ね」



「……これだからむっつりすけべは…」






お寿司食べたら明日も頑張ろう。
うん。