イライライライラしていたけれど
「お疲れ様。心優」
優しい彼氏の顔を見ればそんなものは少し吹っ飛んだ。
「あきらー!!」
「……久しぶり。全然連絡取れてなかったから心配してたんだぞ。俺」
「ごめんねぇ……もうクズの世話に手を焼いているというか。」
甘えるように彼氏に擦り寄ると、休息タイムが訪れる。
癒しだ……同じ男なのにどうしてこうも違うのか。
「ご飯食う?」
「食べる!! 特製チャーハン食べたい!」
「了解。っていうか……お前香水の匂いすごいな。飯の前にシャワーしてきたら?」
彼の言葉に一瞬 え と固まった。
香水の匂いが私に移ってるの??
あの中で甘ったるい匂いを放ってるのは奴のみ。
わかっちゃいるけど、一応確認のために匂いを嗅いでみる。
「うわぁ……蓮斗さんの匂いだ……」
「蓮斗?」
「……そう。女たらしでね……顔はすごい綺麗なんだけど、厄介なんだよ。あ、お母さんとも付き合いが一番長いみたい。」
案の定だったので、顔を歪めながらスーツの上着を脱いで、晃の部屋にある消臭剤をふりかける。それでも香水の匂いには勝てないよう……クリーニングに出すしかないのかな。
「お母さんと付き合い長いのかぁ。なんかほんと大変そうなこと押し付けられたんだな。」
「そうだよ……私もしかしたら蓮斗さんお母さんのこともたぶらかしたんじゃないだろうかとか考えて、その度ゾッとしてるの。そんなの想像したくないけど、しちゃう」
「それはないだろう……そんなに見境いないわけじゃないんだろ?」
「いや割と見境いな……」
突然このタイミングで思い出したのは、蓮斗さんにキスされたあの日のこと。
そういえば、私晃に黙ったままだしすっかり忘れていた。
いっそのこと忘れたままでよかったのに。
「心優?」
「あ、み、見境いない。ほんと!!私は、ただの道具って思われてるっぽくて全く興味なさそうだけどその他はどうなんだろうって感じ。」
言えるわけないので笑顔で誤魔化して、シャワーを浴びるために彼の部屋にストックしてある私の服を取り出した。
「ほんと、お疲れ様だな。お前」
「……そうなの。それにさ、今はギャンブラーに困っているというか。何というか……」
「ギャンブラー!!?」
そんなのいるのか
といったような顔であんぐりと口を開けた晃に、模範解答な反応だなと思う。私だって初めは、アイドルとして終わってると思ってたもの。
「…やめさせる手はないか考えてるんだけど、見つからなくてさぁ……」
「いや、もうアイドルにする以前の問題だな……ほんとに」
呆れた様子の彼は、やっぱりまともな人間だなと実感した。ちょっとクズの相手をしすぎて、正直男への価値観が狂いそうだ。
「……また今日終わったらしばらく会えないと思うけど、ごめんね……」
「いいって。頑張ってるんだから。ほら飯しておくからシャワー浴びてこい」
「うん!!」
本当に全ての疲れが吹っ飛んでいく気がする。
だけどこんなものは、束の間の休息。
明日はまた地獄が待ってるだろうと、ぶるっと寒気に襲われたのだった。

