少し目を離せばどこかに行ってしまいそうな健吾さんを見張りつつ、今日すべきことを慌ただしくこなしていった。
そのうち会食やらなんやら行かなきゃ行けないだろうな……。曲書いてもらったり、振り付けしてもらうのも頼まないと……ああ、でもそこまで行くにはまだみんなのやる気がなさすぎる。グループの名前すら考えられてないし。
焦ってはいけないと自分にしっかり言い聞かせて、1つずつやることを見つけていく。
いままでこんなにバタバタと働いたこともなかったので、まず身体がついていかないのが現状だ。
おまけに精神的にかなりやられるし。
ボイトレの先生が約束の時間にやってきて、5人を紹介したけれどやはり蓮斗さんと慎太郎くんは真面目にやってはくれない。一応レッスン場には置いてきたけど……
健吾さんは、給料無しという言葉にダメージを負ったのか今回はそれなりに頑張っているようだ。
「ああ……なんか頭痛い……」
晃に会いたいな……
忙しい中、ふと思うのは恋人のこと。
最近ロクに連絡も取れていないせいで恋しくて仕方ない
話したいことも山ほどあるのに。
「………はぁ」
ここにきてからため息が多くなった。
書類を見るか、奴等に手を焼いているか、人に会っているか。そのどれかだ。
お母さんはこの5人を上手く束ねていたんだろうか。だとしたら相当悔しい。
自分の母へ闘争心を燃やしていたら時計の針が進んで、レッスンを終えた奴らが帰ってくる。少し静かだった事務所がまた一気に騒がしくなった。
「マネージャー!!」
そして何故だか嬉しそうにこちらにやってきた健吾さんに、嫌な予感がする。
「……なに?」
「俺さ……かなり真面目に頑張ったんだ。」
「…うん」
「……ってことで、お金貸して!! お小遣い前貸しで!!日曜日はG1あるから!! 俺のオススメの馬が走るよー!」
ほらな。やっぱりだ。
「ぁあ?」
ついつい喧嘩腰に母音が出て、鋭く睨みつけたら彼は怯んだ。
「一回頑張っただけで、よくもまぁお金を催促できるな。ほんといっぺん東京湾に沈めてやろうか!!」
私はここにいるだけで、いつか誰か1人刺してしまいそうだ。それほど、イライラゲージが毎日すごい。
「……え、ど、どうして怒ってんの?」
「怒るに決まってるでしょっ!!! そんなにお金が欲しいならアルバイトでもなんでもすれば!!! 」
「みゆちゃんイライラしてるね。大丈夫ー?」
「凛ちゃんダメよ。きっとあれよ。あの日なのよ。」
「……そこ!うるさい! 違うわっ!」
俊輔さんの”あの日”発言にしっかりツッコミを入れて、私はバタンと開いていた書類を閉めた。
「もう私帰るから!!戸締りよろしくっ!! 後ずっと思ってたけど、事務所をもっと綺麗に使え!!」
散らかったお菓子の袋、飲みっぱなしのドリンク
誰も整理整頓がなっちゃいない。
「……お前イライラしすぎだろ。 さっさと男に抱いてもらってすっきりしてこい」
「…ぶっ!! なんちゅーこと言うの!? 蓮斗さんの馬鹿!!!!」
顔が真っ赤になってしまって威厳もなにも無くなりそうなので、私は慌ててそう叫び事務所の扉を思い切り閉めた。
……どうやったら健吾さんのギャンブル依存症をやめさせられるか考えてみたけれど、答えが見つからなさそうで頭を押さえる。
晃に助けを求めに行こう。うん。

