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鳳凰堂は庁舎から少し離れたホテルの2階にある中華料理屋で、早歩きでも10分以上かかる。
食べて帰るだけなら昼休みでもなんとかなる距離だが、今回の目的は別にあった。

研修が少し早く終わった私は庁舎前でタクシーを捕まえており、走って出てきた有紀を乗せて鳳凰堂へ急ぐ。
料金は私持ちだけど仕方ない。

なぜそこまでして鳳凰堂にこだわったのか。
それはひとえにテーブルとテーブルの間隔が広いから!

人に聞かれたくない会話をするのに、庁舎内の食堂なんてもってのほかだし、今から個室を取れるわけもない。

だったら、と声が聞こえにくい環境をひねりだした結果の鳳凰堂なのだ。

しかも鳳凰堂はお値段が高めの割に味が普通という理由で、混まない・・・。



のんびりジャスミンティーを味わう有紀に、時間が惜しい私はこれまでの出来事を洗いざらいぶちまけた。

白熱しつつも声をひそめたマシンガントーク。
人間必死になれば器用になれるものだ。

「ああー!富樫さん!いいじゃなーい!」

すべてを聞き終えた有紀の第一声はこれだった。

「知ってるの?」

「今の課に来る前は一緒の出先機関だった。課は違うけど。あっつ!!」

レンゲに山盛りの天心飯をほおばろうとして火傷したらしい。
冷めたジャスミンティーで冷ましている。
そんな友人のためにお水をお願いしてやった。

「富樫さん、年齢が年齢だからワーキャー言われないけど、人望はあったよ。独身の人でひそかに狙ってる人はいるんじゃないかな」

「そんな人がなんで?何か問題あるんじゃないの?」

「いや、そういう話は聞かないよ。その課長が言うように仕事ばっかりで婚期逃したんじゃない?確かにいっつも残業してたもん」

いっつも残業している背中を思う。
彼もそうやって仕事と結婚するのだろうか。
それとも誰かと恋に落ちて、仕事も手につかなくなる日がくるのだろうか。