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しつこいようだが、今日は土曜日だ。

私や伊月君が出勤しているのは通常の業務ではなく時間外。
そしてそれも正式に申請したものではないから、いわばサービス残業なのだ。

職場に暖房が入っていないのもそのため。
勝手に出入りしている人間のために、土日に電気を使うはずはない。

━━━━━従って、給湯設備の電源も入っているはずはなかった。


「はあ~、忘れてた~。なんなの?この無様な姿」

電気の止まっている大型給湯器の前でがっくりうなだれる。
視線を落とした先に見えた指先は相変わらず赤いまま。


すでに伊月君には全身くまなく触られてるっていうのに、指先くらいでこの過剰反応はどうなんだ?
この程度のこと、真顔でかわせなくてあと数ヶ月乗り切れるのだろうか。

伊月君も伊月君だ。
あんな風に触れるなんて、やっぱり距離が近くなっているのだろうか。

男性に一度肌を許せば〈俺の女〉という認識になると聞いたことがあるけど・・・。
それにしては自分で驚いていたみたいだし、相変わらず考えていることがまったく読めない。

〈俺の女〉。

そうなる道は自分で捨てた。

だって身体だけ繋がるなんて、あまりに悲しい。
自分が愛されていないことを間近で見つめ続けるような趣味はない。

だから一度だけって自分で決めたのに、覚悟して挑発(誘惑?)したくせに、職場恋愛は思った以上に甘くなかった。


「お茶を飲む」と言って出てきた手前、すごすご帰るのは少し恥ずかしい。

自動販売機でお茶を買おうか。
だけど自動販売機ってあったかいというより、ぬるい。

熱々だと持てないとしても、すぐに冷めてしまって体をあっためるところまでいかない。

・・・そもそも、お財布を持ってきてない。


諦めて結局席に戻ることにした。