「咲里亜さん、食べないんですか?」
伊月君がまさによく漬かったキムチをポリポリ噛みながら声を掛けてきた。
・・・なんか、ありがとう。
「食べる、食べる。おいしそうだねー」
私はかなりボリュームのある焼き肉丼を持ち上げた。
あまり手の大きくない私にはなかなかハードだ。
境界確認の後、すっかりお昼を過ぎていたので私と伊月君は途中でお昼ご飯を食べて帰ることにした。
以前から行ってみたかった焼き肉店が途中にあったことを、往路ですでにチェックしていたのだ。
ランチの焼き肉丼はご飯の上にタレがたっぷりかかった厚めの牛肉がドスンドスンと乗っていてとても豪快。
一口かじって・・・かじって・・・かじ・・・ダメだ、全部口に入れよう。
モグモグモグモグ。
うーん。予想よりずっと固い。
これ飲み込めるかな?
永遠に口の中にいたりして。
あ、生涯の伴侶はこの肉だったか!
甘辛いソースの味はすぐしなくなって、あとはただただ噛むだけだ。
肉だね、うん。肉だ。肉の味しかしない。
「どうですか?」
「肉本来の味だね」
「ですね。時間かかりそうです」
「ゆっくり食事を楽しめる、と言ったら?」
「プラス志向ですね」
そして明らかに店員さんの様子をうかがって、声をひそめる。
「全然褒めてませんよね?」
「私、○○本来の味って好きじゃないの。卵本来の味のプリンとか。卵が食べたいんじゃなくてプリンが食べたいのに。もっと素材の味を殺してほしい」
「牛乳やさんのソフトクリームとか?」
「そうそう!あれバニラじゃなくて牛乳味だよね。私バニラは好きだけど牛乳は嫌いなのに」
「牛乳嫌いなんですか?だから背が伸びなかったんじゃないですか?」
「祖父母までたどっても小粒だからただの遺伝だよ!」
伊月君は真面目な顔でこういうことを言ってくる。
ちょこちょこ失礼なこと言われてきた気がする。
でも本人はただ事実を言っただけなんだろう。
おせじとか柔軟な対応ができるタイプじゃないことは知ってるから。
こっちもいろいろ言いやすいからいいけどさ。



