明けない夜はない。

12時で魔法が解けなくても、靴は玄関にちゃんと揃っていても、朝がくればすべてが明るみに出る。

暗闇の中では見えなかった窓枠の埃も、壁のシミも。
伊月君のつるつるの肌も、筋肉のラインも。
私のゆるんだ体型も、くすんだ肌も。


まだ背中に感じる私より高い体温を少しの間胸に刻んで、お腹の上に乗っていた重い腕をはずした。

少し体を離しただけで、冷気がさっと全身を包む。

下だけははいていたから、そっとベッドから手を伸ばしてブラジャーをつけた。

意を決していベッドを出る。
ピリピリと刺すような寒さに慣れることはない。

キャミソールを着て、ブラウスのボタンを2つほど止めたとき、背中の方で動く気配があった。

「━━━━━おはよう、ございます」

「おはよう」

私は振り返りもせず最後までボタンを止めた。

「動揺してないってことは、ちゃんと覚えてるんですよね?」

スカートに伸ばした手が、さすがに一瞬止まってしまったけど、振り払うように着替えを続けた。

「覚えてるよ」

確信犯なのだから。

「責任取らせてください」


必死で何でもない風を装っていたのに、とても続けられなくなった。
心臓を射抜かれて止まってしまった呼吸を戻すので精一杯だったから。

最初からわかっていたことだ。
いい思い出にしようとこんなことをしたのに。

夜が明けて、自然に何事もなかったかのように、これまでと同じ日常に戻るつもりだった。
伊月君とならそれができると思ってた。

だけど、こうもハッキリと自分の立ち位置を思い知らされるとは思っていなかった。

『責任』

それが、彼の答え。
私の気持ちとの絶対的な温度差だ。