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お互い酔った勢いだから(私は違うけど)、乱暴で適当だと思ってた。
それでも全然構わなかった。

だけど伊月君はどこまでも伊月君で、目を閉じていてもキスをしている相手が伊月君だとわかる。

彼らしい真面目で丁寧なキスだった。


震えるほどドキドキしているのに、伊月君だとわかるから怖さは微塵もない。
何の断りも会話もなくても、ひとつひとつ私の気持ちを確認しているような気がする。

だから私はやっぱり彼が好きだなって、とても悲しくなった。


ふっとかわいらしくピンク色の笑顔を浮かべる風見さんの姿が甦った。

彼女には本当に申し訳ないことをしている。
彼女だけでなく、伊月君を好きなたくさんの女性たちにも。
この先伊月君と付き合う、そして結婚する誰かにも。

私は卑怯で最低だ。
こんなこと、何の意味もない。
意味ないとわかっていても、手を伸ばさずにいられなかった。

とてもとても好きだから。

たった一晩だけでも伊月君を独占できるなら、もうこの恋はそれでいいかと思ったんだ。

浅はかでしょう?
愚かでしょう?
30年生きてきて、私もこんなにバカになるなんて思わなかったよ。

さらに30年くらい経って、私が定年退職する頃、今夜のことをどう思っているんだろう。

それまでの間には伊月君やその奥さんと一緒に働く時期もあるかもしれない。

だけどもう痛みはなくなっているだろう。
懐かしく、幸せに思えるだろうか。
それとも別の誰かと幸せになっていて、思い出しもしないだろうか。

予想できるたくさんの未来の中で、後悔している姿だけは想像できなかった。

それはこの体温に狂わされているだけかもしれないのだけど。


ごめんね。
誰に謝るべきかわからないけど、とにかくごめんね。

卑怯で最低な私は、今、ものすごく幸せです。