お礼を言って乗り込むが、やっぱり脚はふらふらとしてドアになんとかつかまりながら無様にシートに倒れ込んだ。
もう、嫌っ!
いっそ記憶もなくなっていればよかったのに、こっちは妙にしっかりしているのだ。
体勢を立て直して行き先を告げようとすると、伊月君がするっと乗り込んできた。
私が拒絶の言葉を口にする前に彼の方が行き先を言ってしまう。
それは、当然私の家ではなく・・・。
どういうこと?
まさか、本当に私を持ち帰るつもり?
動揺して伊月君を見ても、彼は真っ直ぐ正面だけを向いて座っている。
頭は冷静だから、運転手さんが聞いているこの場面であからさまな問いかけはしづらかった。
5分もせずに着いたのはさほど大きくない二階建てのアパート。
私もたまに行くスーパーが見えるほど近くて、生活するのには便利そうな場所だ。
正面から見て、左右上下に一世帯ずつ合計4世帯入居できる作りになっているらしい。
左側の上下2世帯の窓からは明かりが見える。
その右上の部屋に向かって、伊月君は私を支えながら上っていく。
状況を理解しきれないまま密着されて、私は口を開くこともできなかった。
ドアの前にたどり着くと伊月君はドアノブについたパネルに暗唱番号を入力する。
このタイプなら鍵をなくす心配がなくていいなー、と私はどうでもいいことばかり考えていた。



