「ところでこれ、何の募金?」
「・・・さあ?」
「みち子ママ!」
ちょうど厨房から出てきたママを呼び止める。
「これ何のための募金箱?」
「ああそれ?私の貯金箱。貯まったら早めに墓石買おうかと思ってるんだけど、なかなか貯まらなくって。まだまだ死ねないわね!」
カラカラと笑ってテーブルを片づけに行ったママを、伊月君はちょっと呆然と見ていた。
「・・・貯まらない方がよかったですね」
「早めに墓石買う人ってなかなか死なないから大丈夫だよ」
「伊月さん、咲里亜さん、二次会行かないんですか?」
もう誰も残っていないと思っていたのに声を掛けられて二人同時にびっくりする。
振り向いた先にはお酒のせいなのか、伊月君のせいなのか(両方かな)、いつもより桃色を倍増した風見さんがかわいらしく微笑んでいた。
あ、伊月君を待ってたのか。
こうなってしまえば私の選択肢は二つ。
「じゃあみんなで行こう」と立ち上がるか━━━━━まだ立ち上がれないので、選択肢は一つになった。
「私はもう少しママとお話したいから、二人で行って。ほらほら良二さんが待ってるよー」
イスの上からひらひら手を振って追い払うと、風見さんはふんわりとした笑顔で、伊月君はいつもの無表情で会釈して出ていった。
バカらしいけど、素直になるのは難しい。
気持ちのままに伊月君を引き留めて風見さんを追い払うのは「素直」とは別物だし、私はいい年をした大人だから。



