私は酔っても顔に出ない。
他人からは素面みたいに見えるらしい。
実際そんなに深酒をしたことはないから、記憶をなくすようなことも経験ない。
頭は比較的しっかりしているのだ。
ただ、脚にくる。
見事に千鳥足になる。
わかっているから気をつけて席を立つのだけど、膝がすでに笑っていた。
やさぐれた気持ちで課長と杯を重ねたのがよくなかったようだ。
解散の後、二次会に行く人たちを見送りつつ、カウンターで少しお水をもらって休んでいた。
「咲里亜さーーん、二次会行くよね?」
肩に乗ってきた良二さんの顔を手の甲で払い落とす。
酔っぱらってるから何しても大丈夫だ。
「行きます、行きます(嘘)。ちょっとママとお話して、ついうっかり気が向いたら行きますから」
尚もからんでくる良二さんを追いやってため息をつくと、ジャリッという小さな音が耳に入ってきた。
どうやらカウンターの隅にある募金箱に、伊月君がお金を入れた音だったらしい。
そう言えば、前にも伊月君はお金を入れていたっけ。
「伊月君ってマメに募金してて偉いね」
「全然偉くはありません。俺の募金は下心でいっぱいなので」
なかなか〈募金〉と〈下心〉をくっつけて使う人はいないと思う。
「あ!この前言ってたポイントカード?」
「そうです。これでまた徳が貯まりました」
「そう言われると募金にもありがたみがないね」
「いいんです。純粋な善意の100円も下心いっぱいで偽善の100円も、価値は同じ100円ですから」
「言われてみればそうだね。じゃあ、私も偽善の募金をしよう」
お財布から100円取り出してジャリッと入れた。



