いつか良二さんが言ったように、伊月君はニコニコと会話していた。
あんなに楽しそうに女の子を褒めることもあるんだ。
伊月君は嘘を言わないから本心なんだろう。
そこから導き出される答えはあまりにも悲しい。
私のことは嫌いじゃないかもしれないけど、好きではないのだ。
同僚として最低限の付き合いだったのだ。
ソフトクリームも本当に他意がなかったということだ。
もう食べるところもないニシンをそれでもいじくり回していたら、今日は太古のシダ植物みたいな柄のブラウスを着たみち子ママが隣に座ってきた。
「咲里亜ちゃん、なんだか今日は浮かない顔してるね」
「ニシンの小骨が刺さっちゃっただけですよ」
「あら、大変。取れそう?」
「無理ですねー。もうこの小骨とともに生きて参ります」
「本当に小骨なのかな?」
「・・・・・・・・・」
みち子ママにのぞき込まれると、全部見透かされているような気持ちになる。
「咲里亜ちゃんは心配かけないように何でもない言い方するけど、傷って本人が思ってるより大きいこともあるのよ」
「ママ・・・」
「一瞬の大きな痛みよりね、一見小さいけどずーっと感じる痛みの方が消耗だって激しいの。少しだから、我慢できるからって小さく見積もったらダメよ。最初は小さくてもそこから大きな傷になることだってあるんだから。咲里亜ちゃんが元気ないのは、やっぱり悲しいもの」
なぜみんながこの店を好きなのかわかる。
みち子ママは深く踏み込んでこないのに、こうやって寄り添って確実に心の中をあたためてくれるからだ。
「ママ、ありがとう」
「ううん。小骨って本当にバカにできないから。もしかしたらもっと大きな骨かもしれないでしょう?」
あれ?
「今夜中に取れなかったら明日病院に行った方がいいと思うよ。行くのは耳鼻科ね。専用の機械じゃないと取れないんですって」
あ、小骨の話ね。
私がそう言ったんだもんね。
「・・・・・・ママ、ありがとう」



