「大体この辺だってことはわかるけど、正確にって言われるとねー。そっちで情報あるなら適当に作っておいてよ」

町中にある宅地ならともかく、山の中の所有地の境界線を明確に把握している例はごくごく稀だ。
だから地権者の返答はこのパターンが多い。

こちらとしてもこの言質さえ取れればよくて、あとは登記簿に従って境界を確認し、測量してもらうだけだ。

わかっていても手順を踏むことは重要。
結果だけでなく経過も見られるのが公務なのだ。


私たちはいわば行政のプロ。
民間で働く人たちからは理解できないような時間をかけ、煩雑な手順を踏み、ダブルチェック、トリプルチェックで業務を進めていく。

それもこれも税金を使っているから間違いが起こる危険性を減らすために他ならない。

もちろん形骸化している部分も多いけど、簡単に「無駄だからやめよう」とはできないのだ。

成果を上げればいいという仕事ではない。
むしろ床を踏み抜かないように慎重に、ということが多い。

簡単にクビにはならない代わりに、余程のことがなければ出世もしない。

数年ごとに仕事内容もガラリと変わるから、やり甲斐を見出すことも難しい。

仕事に重きを置いている人には向かない職業だ。

むしろ、仕事は仕事と割り切って別の部分に人生の楽しみを見つける人にはこれ以上の仕事はない。
私もしっかりそのタイプ。

仕事終わりで外食したり、休日は映画やショッピングに出かけたり、友達と会ったり。
これといった趣味はないし人に自慢できるような生活じゃなくても私は満足している。

満足しているのに、時々ふっと不安になる。

私、ずーっとこのままなのかなって。
このままでいいと思うのに、このままなのかなって。