「伊月君、これバカらしくって最高!」

「・・・それは、よかったです」

伊月君がどんなに苦労したって、そもそも書類をちゃんと見るのも面倒臭いという人はいる。
だから結局誘導は必要だ。

だけど心なしかいつもより迷いなく座る人が多いような気が、しないでもない。


それ以上に、私は今日一日の中で、いやここしばらく仕事をしてきた中で、この会場席図に一番心がなごんだ。

つい口元がゆるんでしまうから、説明会の間は意識的に見ないようにしたほどだ。


説明者である伊月君は淡々と言葉を続けている。
普段の会話はモゴモゴしているくせに、ゆっくりクリアな発声だ。

初めて気づいたけど伊月君って結構いい声してるんだな。
落ち着いてやわらかくて、でも不思議と響く声。
うん、ずっと聞いていても嫌じゃない声だ。

そういう目で伊月君を見ると細身で背はそこそこ高いし、意外なことに脚も長い。
姿勢もいい。

遠くから薄目でぼーんやり見たらイケメンに見えなくもないな。

おっと、目を細め過ぎてブラックアウトするところだった。
寝ていたと思われたら大変。