━━━━━なんだ、これ?


今夜、今後の道路建設に関して住民説明会が行われる。
その事前に渡された資料をめくっていて手が止まった。

担当者である伊月君の手によるそれらは、彼らしく素っ気なくも綿密に作られている。
その中で異彩を放つ一枚があった。
会場席図がそれである。

今夜の説明会は、要するにこれから用地買収をするに当たって、なぜそれが必要なのか、どこからどこまで買い取る予定なのかを説明し、そしてそれに対する理解と協力をお願いするためのものである。

会場席図は説明会場の見取り図で、それぞれの座席や窓とドアの位置なんかが簡単に示されているのが通常である。
が、伊月君のそれはもはやマンガだった。

窓にゆれるカーテン、リアルに再現された引き戸。
人物は○や△を組み合わせて作られているものの、真剣に資料に目を落とす人、説明者に目を向ける人などいくつかバリエーションがある。
説明者側には小さなスタンドマイクがついていて、中でも中心に座っている説明者は一生懸命に演説中だ。

いくら伊月君の仕事が丁寧であっても、ここまでする必要はまっっっっったくない。


「ねえ、伊月君。これ、なんで作ったの?」

「エクセルです」

「は?エクセルってこんなの作れるの?」

「図をうまく組み合わせました」

いやいや、そもそも「なんで?」っていうのはそういう意味じゃない。

「無駄だよね」

「・・・確かに9割以上は趣味っていうか、だんだん楽しくなってきてやったことですけど、わかりやすいかなって」

「うん、まあね」

簡単に示した図でも本来十分なのだが、結局わからない人が多くて口頭で説明することが多いのだ。
でもそれで不自由はない。

それなのに一体そこにどれだけ労力を割いたというのだろう。

「これ、どのくらいかかった?」

「聞かないでください。でも家でやったので残業はつけてませんよ」

家で一人でチマチマこれを作ったのか。
真面目くさった顔で、流れるカーテンとかスタンドマイクの角度とかを調整して。

ぷくくくくくくく!!ばっかみたい!