大人のいない世界




「割れている窓ガラスなんて、ひとつもなかったよ」



二階から降りてきたナナが、リビングにやってきた。


「今………なんて……………?」

「全部の部屋を回ってきたけど、窓ガラスが割れている部屋はひとつもなかった」

「そんな……そんなはずは!」

「でも現に、この部屋の窓ガラスだって割れていない。

ねえ、杏奈。

きっと、疲れているんだよ。

今までずっと一人で翔君と舞衣ちゃんのお世話をしてきたから……。


だから、変な勘違いをしているんだよ。

ねえ、もう帰ろう…杏奈」

「ナナ……………」


じゃあ、私が見た……割れた窓ガラスとあの血はなんだったの?

私がつくりだした幻だとでも言うの?


でも、そんなことを言ったところで、もうナナ達には信じてもらうことはできないだろう。