別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~

松島さんの顔が、パアと明るくなる。

と、同時に奏人の隣の椅子をすばやく引き座り込んだ。

トレーに有ったもう一つのコーヒーは、自分の前の机の上に。
それは私に持って来てくれたんじゃないんですか?

唖然としている私の存在は既に無いものにしているのか、松島さんは奏人だけを見つめて張り切った声を出す。

「それで北条君が私に頼みたいことって何? 何でも言ってくれていいのよ」

……今、確信した。

松島さんは絶対に奏人狙い。

奏人は内心どう感じているかは分からないけど、表向きは感じの良い笑顔で松島さんに告げる。

「今、中瀬さんが担当している郵便管理の仕事を、今後、松島さんにお願いしたいのですが」

「え……」

思った通り、松島さんの表情があからさまに暗くなる。

どう見ても嫌そう。

だけど奏人に対しては、はっきり拒否出来ないようで、引き攣った笑みを浮かべた。

「郵便の仕事は中瀬さんで充分こなせているから、私が担当する必要は無いんじゃないかしら」

「中瀬さんは他の仕事が増えるので、郵便まで手が回らなくなりそうなんです。松島さんは仕事の要領が良いのか、他の人より余裕があるようです。是非お願いしたいのですが」

奏人は見事な営業スマイルを浮かべ、命令ではなく、あくまでお願いといったスタイルで話を進める。

さり気なく、松島さんの仕事ぶりを持ち上げるところなど流石だ。

波風立たないようにしたい私の意向を、しっかりと汲んでくれている。