別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~

「家族で協力して……仲がいいんだね」

「ああ、居心地の良い家だったよ。でも生活するには手狭になったから、俺は家を出てアパートを借りたんだ」

そう言えば前に家の事情で一人暮らしをした……って言ってたけど、事情って大家族の事だったんだ。

「それがあのアパート? だからポストに小林って書いてあったの?」

私が何度も通ったあの部屋に表札は無かったけれど、郵便受けには小林と書かれた白い紙が貼ってあった。

他にも何の書類かは忘れたけど、小林奏人と書いて有ったのを見た覚えがある。

だから、私は名前が違うなんて考えもしなかった。


「小林奏人のとき入居したから。途中で北条に変わったけどそのままにしてた」

「いつ北条になったの?」

「理沙に会う少し前。その頃からさくら堂で働く為の勉強をしてたんだ。時々会社に行っていたのはその一環」

「そっか……思い出してみると一年付き合っていても、正式な書類を書く機会ってあまり無かったんだね。私達当時は仕事も別だし、ふたりで旅行も行ったことが無かったじゃない? それに会うのは週末だったから。そう考えると奏人と会ってたのってそれ程多くなかったのかもしれないね。一緒に過ごした一年は凄く濃かった気がするのに」

信用して何もかも曝け出していた気がするけど、実はそれ程お互いのことを知らないのかもしれない。

奏人もふたりで過ごした日々を振り返っていたのか、思い出したように言い出した。