別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~

「仕事に私情を挟むなとおっしゃるなら、まずは私の事を名前で呼ぶのは止めて下さい」

奏人の目が大きく見開かれる。

私の言葉がそんなに意外だって言うの?
明らかに動揺している様に見える。

なんて自分勝手なんだろう。
私には平気で無神経な事を言うくせに、自分はちょっと突き放されただけで傷付くなんて。

うんざりした気持ちになっていると、奏人がガタリと音を立てて立ち上がった。

出ていくのかな?
そう思ったのはほんの僅かな間の事で、直ぐに奏人が私に近付こうとしている事に気が付いた。

出口に向かわずに、私の所に向かって来る。

え? 何で近付いて来るの?
警戒心でいっぱいの私も立ち上がる。
一年も騙されて続けた私だけど、今の奏人の前でぼんやり座っていられる程呑気じゃ無い。

その態度で私の心情を察したのか、奏人があからさまに傷付いた顔をした。

……何なの、その顔?
まるで私が悪者みたいじゃない。

奏人は中途半端な距離を開けたまま立ち止まった。

「理沙、そんなに警戒しないでくれ」
「無理です」

即答すると、奏人は顔をしかめ、それから躊躇いがちに言った。

「……俺の隠し事で理沙が怒っているのは分かってる。でも話を聞いて欲しいんだ」

「言い訳なら結構です。私達はもう別れたんだし、今更話を聞く必要が有りませんから」

「理沙……」

「何を言われたって騙されていた事実は変わらないですから」

冷たく言うと、奏人は俯いてしまった。

こんな風に奏人を傷付けてしまう私も矛盾している。

別れたと言うなら、私こそ攻撃的な事を言う必要は無いはずなのに、イライラしてしまう気持ちを抑えられない。