別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~

奏人は真っ直ぐ私を見ていた。
私の知っていた優しい笑顔は無く、眉間にシワを寄せた険しい顔で。

少し前まで奏人と恋人同士だったなんて嘘の様に、私達の間には張り詰めた空気が漂っている。

「理沙、俺の存在は無いかの様に振舞うのは止めてくれ。部長も変に思ったはずだ」

あんな別れ方をした後にこのセリフ?
唖然とする私の事なんて気にもとめずに、奏人は発言を続ける。

「俺に怒っているのは分かっているけど、仕事には私情を挟まないでくれ」

ああ、怒っているのは分かってるんだ
分かった上でのこのセリフって事なんだ。

思わず笑いが込み上げて来た。
今、目の前にいる奏人が、私の好きだった奏人とは別人だって再確認したから。

私の好きだった奏人は、一年付き合った恋人に裏切られて傷付いている相手に、平然と仕事のクレームを付けられる様な人じゃない。

別れたはずの恋人が突然同僚として現れて混乱している相手に、私情を出すなと言う様な冷たい人じゃない。

本当に私は騙されていたんた。

奏人は、私とは分かり合えない他人でしか無い。

血の気を失う様に、身体中が冷たくなっていく。
心まで凍り付いてしまった様な感覚に襲われながはら、私は奏人に冷ややかに告げた。