別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~


終業のチャイムが流れると、私は急いで机を片付け、足元の箱に仕舞っているバッグを取り出して、コート掛けに向かった。

この会社の設備はかなり充実しているんだけど、なぜかロッカールームが無い。

トイレに個人毎の小さな小物入れが有るだけで、そこには歯磨きセットと化粧ポーチくらいしか入らない。

だからバッグは自分の席の足元に置かれたプラスチックのケースに仕舞い、ジャケットなど上着は、フロアの端のコート掛けにかける事になっている。

私は上着を取ると、さっさと出口に向かおうとした。
ノロノロしていたらまた松島さんに捕まりそうだからね。

でもちょうどその時、部長達と奏人が会議室から出てきたものだから、ついうっかり立ち止まってしまった。

直ぐに奏人と目が合ってしまう。

奏人は帰り支度を終えている私を見ると、少し不満そうな表情になり、部長に何かを伝えていた。

な、何? 私の事を話してるの?
私が定時で帰る事に何か問題が?

なんだか嫌な予感が……。

予感は当たり、部長が私に声をかけて来た。

「中瀬さん、こんな時間に申し訳ないですが、少し打ち合わせをお願い出来ないですか? 時間はかけませんから」

「え?……あ、はい。分かりました」

こんな時間から部長と打ち合わせなんて、初めての事だ。何を言われるのか少し不安になる。

でも、断る事は出来ないので、私はコート掛けに上着を戻し、部長の元へ向かう。

奏人の視線を感じるけど、あえて気付かないふりをする。

「では、向こうで話しましょうか」

「はい」

部長に連れられて、さっきまで奏人達が篭っていた会議室に向かう。

なぜか奏人も一緒で、私の不安はますます大きくなっていった。