「元々松島さんのことで軽蔑してたみたいだけど、最近は仕事のやり方も気に入らないみたい」
「それなら以前から仲は良くないよね? どうしてそんな相手に奏人の悪口を言おうと思ったのかな」
「開発部と奏人君の関係を、悪くしたかったんじゃないの?」
「どうして?」
そんなことをして、滝島課長に何のメリットがあるのだろう。
「奏人君と開発部と合同で手がけているボードゲームの新製品、上層部に結構評判がいいんだって。昔ながらのゲームに最新の技術を加えて作った新しいものだからね。滝島課長はその情報を得て焦り始めたんじゃない? 最近二課ではトラブルばかりで業績も今一みたいだし」
梓の話は、良いことも悪いこともあって、私は戸惑うばかりだった。
奏人の仕事が認められるのは嬉しいけど、それによって滝島課長の反感を買ってしまうなんて。
あの執念深そうな課長が何かしてきたらと考えると、不安が募る。
「理沙も気をつけたほうがいいよ」
「私? どうして?」
思いがけない事を言われ、私は首をかしげた。
「だって奏人君との関係を知られてるんでしょう? 邪魔な奏人君を排除する為に理沙を利用するかもしれないじゃない」
「ま、まさか!」
そこまでしたら病的じゃない?
「そんなことしないで、自分の仕事を頑張ればいいのに」
「奏人君と理沙はそのタイプだよね。でもライバルを蹴落とすのにちょっと汚い手を使う人はいると思うよ」
梓に言い切られ、私は沈黙した。
そんなことある訳がないと言えるだけの信頼が、滝島課長に対してないから。
それからは不安な日を過ごした。
滝島課長が何かしてきたらと思うと、どうしても落ち着かない。
奏人はそんな私の様子を敏感に察し、何度も「どうした?」と問い質して来た。
相談しようかとも思ったけど、この大事な時期にこれ以上問題を抱えさせたくなくて、私は奏人には何も言わないでいた。

