別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~

朝美さんが消えたことで、ようやく落ち着きと静けさを取り戻した。

はあと息を吐きながら奏人を見ると、取り押さえてる時にひっかかれたのか、彼の顔にはうっすらとした傷が出来ていた。

「奏人、血が滲んでるよ」

手当てをしなくちゃと思い、近付こうとしたそのとき、声がした。

「奏人……ね」

はっとして声の方を振り返った私は、そこに滝島課長の姿を認め瞬時に青ざめた。

す、すっかり忘れていたけど、この人が居たんだ。

朝美さんが騒いでいる時ひと言も話さなかったし、気配も全く感じなかったからうっかり存在を忘れてしまっていた。

どうしよう……滝島課長の前で馴れ馴れしく“奏人”なんて呼んじゃうなんて。

動揺する私を、瀧島課長は冷笑で眺めながら言う。

「とりあえず座ったらどうだ」

「……はい」

大人しく座り項垂れる。
これから何を言われるのか想像すると恐い。

逃げ道が無いくらい、いろいろと追及されるのかもしれない。

不安に苛まれていると、奏人が元いた私の隣の席に座り、滝島課長に向かって言った。