別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~

だって、私のアパートの前を通った目的は、私を心配して来た訳じゃない。

あの女性の家に行ったんだと気付いたから。

女性の住まいのレクセルハイツに行くには、私のアパートの前の道を通る。
きっと、ついでに私の部屋に目を向けただけだ。

奏人からの着信は十一時過ぎから。

コインパーキングで別れたのが九時半頃だから、奏人はあの女性の部屋に一時間以上滞在したのかもしれない。

「理沙?」

黙り込んだ私に、奏人が呼びかけて来る。

でも、返事をする気になれない。

さっきの奏人からの仕打ちで受けた痛みが、私を頑なにさせる。
かと言って、ただちに電話を切ることも出来ない。

「理沙、返事をしてくれ」

奏人の声が大きくなる。

「……なに?」

私の素っ気ない言い方に驚いたのか、奏人は一瞬黙りこむ。

それから少しすると、さっきまでよりハッキリとした奏人の声がした。

「さっきは悪かった。一人で帰らせたりして」

「……もう、いいよ」

今更謝られても、奏人があの女性を選んだこと。

私を追いかけずに、彼女の部屋に向かった事実は変えられないんだから。