クラスの課題で与えられたプリントを見つめつつも、上の空のなゆみは焦点の合わない目でボケーッとしていた。

「(キティ、何をしてますか)」

 油断していたところを先生に突然当てられ、なゆみの体がビクッと反応して素で驚いていた。

 一斉に視線を浴びて、皆と目が合うと気恥ずかしくてたまらない。

 苦笑いになりながら、たどたどしく疲れていたことを押し出して謝るが、先生は調子にのってわざといじめるように叱ってくる。

 そのやり取りがクラスの笑いを誘っていたが、いつもならそれを利用して盛り上げていただろうが、気分が乗らない。

 その後プリントに沿った質問をされたが、咄嗟に理解できず、余計に焦って答えられなかった。

 隣の人が教えてくれたお陰でその場は凌げたが、気がかりなことに心は支配され、全く集中できずにいた。

 ジンジャに今晩電話しようかと考えていたが、帰れば夜遅くなるし、前回のようにまた怒らせてしまったらと思うと躊躇してしまう。

 あれこれ迷いが生じているうちに授業どころではなかった。

 久しぶりに会ったジンジャ。

 変わらぬままにまた笑顔を向けてくれた。

 いつも追いかけて、素直に「ジンジャが大好き」とまで恥ずかしくもなく普通に声に出して言っていた日々。

 ジンジャに彼女が居ると知ってから、あの頃が嘘のようにぎくしゃくし、いともあっさりと縁が切れたような状態がずっと続いていた。

 次第に諦めて、それを受け入れる気持ちになっていたところに、以前と変わらない様子でひょっこりと自分を探しに現れたが、嬉しかった反面、どこかもやもやっとしてしまう。

 なゆみもまた心に変化を生じている。

 ジンジャと会わなくなってから、心の中に新たに根付いたものがあったからだった。

 そこにジンジャが再び現れたことで、不安定に心の中で何かが揺らいでしまう。

 クラスが終わると、なゆみはもたもたする暇もなく誰とも交わりたくなくて早々と学校を去った。