ご飯の支度が終わって、妹の花紗音を起こしに行く。
「花紗音、朝だよ〜起きて」
「………うん…おはよう」
「おはよう」
サラサラと流れる黒髪を手ぐしで整えながらベッドからでた花紗音を見て、私は部屋から出た。
花紗音は姉の私から見ても大人しすぎて心配になる子だ。
私は高2、花紗音は高1で、年子だからか、顔立ちはよく似ているから、ここまで性格が違うものかと時々………うん。
花紗音が支度を終えて下りてくるまでに、私はご飯をテーブルに並べる。
「いただきます」
ちゃんと手を合わせてから、揃って食事を始める。
先程つけたテレビからは、早朝のニュースが流れていた。
「美味しい」
「本当?」
「お姉ちゃんの作るのは何でも」
「それは嬉しいな」
そんなふうに何気ない会話をしつつ。
ゆっくりとテレビを聞き流しながら食事をとる。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
食事を終えて、食器を洗浄機に入れて、部屋に戻って制服に着替える。
その間に、行ってきますと下から聞こえたので、比較的大きめな声でいってらっしゃいと返事をする。
鏡で全身を確認してから、鞄を持って家を出る。
そしてそのまま学校…………………ではなく。
自分の家の隣にある、無駄にでかい家。
その葛城と書かれた隣の家のチャイムを鳴らす。
「はーい」
そう言って出てきたのは、葛城家の家政婦さんである水崎さん。
ここに住んでいる幼なじみも、両親は共働きで滅多に帰ってこない。
休みの日は帰ってきてくれる私の両親よりも忙しく、帰ってくるのは月に1度くらい。
そう思うと寂しくなりそうだ。
「おはよう、鈴奈ちゃん。ごめんなさいね、ぼっちゃんまだ起きてないの」
そう言う水崎さんの人の良い笑みが、少しだけ困っていた。
「大丈夫です、そうかなと思ってたので」
仕方ないなーと苦笑しつつ家にあげてもらう。
そのまま2階にあがり、突き当たりの部屋をノックする。
「薫ー?起きてるー?入るよー?」
そう言って部屋に入る。
鍵かけてないのはいつものこと。
中に入ると、予想を裏切らないでかさの部屋。
その奥に置かれたキングサイズのベッドには、ぬいぐるみを抱きしめたまま眠りこける男子。
長いまつ毛に白い肌。
フワフワの猫っ毛に形のいい唇。
お金持ちで見た目もいいって、与えすぎじゃないですか神様。
まぁもう見慣れましたけど。
可愛らしい顔で眠る彼は、幼なじみの葛城薫。
小さい頃からずっと私の側を離れなくて、高校まで私がいるからという理由で決めてしまった、甘えんぼな男子。
「薫ー」
そんな幼なじみの肩を揺する。
「……ん…なん……あ」
うー、と唸りながら目を開けた薫。
そして私を視界に捕らえると、嬉しそうに笑った。
「おはよぉ鈴奈」
「おはよう」
天使のような笑顔を向けられて、頬がほころぶ。
あー、癒されるわ。
「もー朝?」
「そだよ。だからおきて?」
そう言うと、薫はぎゅっと私の腰にしがみついた。
「もうちょっと…」
「だーめー。おきて。ほら離して」
「いやー」
駄々っ子のように首をふる薫は、そのままあくびをした。
「ねむいもん」
「私も眠いんですー」
ほら、と肩を揺すっていると、むーと言いつつやっと離してくれた。
「じゃあ待ってるから、着替えてきてね」
「はーい…」
すねたように唇を尖らせながらも、薫は頷いた。
いつも通りのそれを見て、自然と笑顔がこぼれる。



