朝起きて初めて目に入ったのは、見慣れない天井。

あぁ、そういえば、ここが私の家なんだっけ。

働かない頭で、なんとか重い身体を起こす。

頭の鈍い痛みが、時間差で襲ってくる。

手探りでスタンドのノートを手に取り、ページを開く。

今日の日付を見つけ、予定を確認する。

そこには、『退院後初めての学校』と書かれている。

「学校…か」

頭の痛みはいまだに残っていて、頭がうまく回らない。

ノートの最初のページを開くと、最初の行には、『神楽坂(かぐらざか) 楓(かえで)』

と書かれている。

これが私の名前。

せめて、名字はありふれたものであってほしかった。

学校へ行くのに、自分の名前を書けないなんて、問題外ではないか。

その下には、友人関係やら、家族構成が書かれている。

それもご丁寧に写真付きで。

名前はもちろん、私との関係や、性格なんかもこと細く書かれている。

今日のページに戻ると、『7時30分、美紅が迎えに来る』

と書かれていた。

たしか友人関係のところに、『親友』と書かれていた気がする。

フルネームは『坂山 美紅』。

病院にも何度かお見舞いに来てくれた。

黒縁メガネの真面目そうな子。

『神楽坂 楓』にしては、いい友人を持ったと思う。

彼女…いや、私は、どちらかというとあまり要領の良くない顔をしている。

まあ、実際の性格については不明だが。

今の私には、『神楽坂 楓』というひとりの人間の内面を知ることは出来ない。

私の名前は『神楽坂 楓』だけど、『神楽坂 楓』という人間はもう存在していないと言ってもいいかもしれない。

どうやら、私は『神楽坂 楓』とは全く違う性格らしい。

両親もそういってたし、美紅に関しても、

「やっぱ私のことは覚えてないよね。

楓、なんかいつもと雰囲気違うもんね」

そう涙目で呟いていた。

これは性格についてなのかよく分からないけれど。

とにかく、今日はなんとか学校に馴染まなくては。

スマホを手に取ると、ちょうどアラームが鳴った。

起きた時時間を見なかったから気づかなかったけど、割と早い時間に起きたようだ。

画面には6時15分と表示されている。

アラームを止めて、LINEのアイコンをタップした。

ロックはしてなくて、友達からは、『大丈夫?』というメッセージが溢れている。

いちいち返信しては埒が明かない。

面倒くさくなって、美紅とのトークだけを見ることにした。