カボチャ男とハロウィン



大して身構える余裕もなく慌てて目を閉じると、すぐに唇に温もりが触れる。

優しさがこもった温もりを感じて心臓が悲鳴を上げそうになるのと同時に、泣きたくなるぐらい幸せな感情で満たされた。

音のない声で“好きだよ”って言われたような気がした。私の心の声も純哉に伝わっていてほしいと願う。


ねえ、純哉。

好きだと思ってるのは私だけじゃなかったんだね。ちゃんと、純哉も好きだと思ってくれていた。

同じ気持ちを抱いて、幼馴染みではなく恋人として一緒にいることを選んだはずなのに、遠回りなわがままでお互いを困らせてたらだめだよね。


「千菜ちゃん、また泣きそうになってんの?」

「っ、なってないよ」


唇が離れると気恥ずかしさに耐えられなくて俯いたというのに、わざわざ顔を覗き込んできた純哉にそんな指摘をされてしまう。

にいっと笑っているところを見ると、私が嬉しくて泣きそうになっていることを理解してからかっているみたいだ。

恋人としてのお互いの気持ちを察することはまだまだ下手くそだけど、幼馴染みとしてなら表情の意味に何となく気付くことが出来る。私も、純哉も。


「千菜ちゃんは昔から泣き虫だよね。嬉しいときも悲しいときも泣きそうになってる」

「そんなことないし!」

「えー? むきになるところが怪しいなぁ。泣いてないならこっち向いてよ」

「やだよ。もうっ、見ないでってば」


恋人らしく触れ合ったあと。

私はいつも熱くなっている顔を見られるのが恥ずかしくて、しばらく純哉を直視出来なくなる。ましてや今はちょっと涙目になっているから余計にだ。