VOICE



その後しばらく笑い続けた海斗に、私はいい加減にしろ、とデコピンをしてから、真顔で聞いた。

「で、さ。明日のセットリストとかは完璧なんだけど、ひとつだけ気になるのが……」

「なになに?」

おでこを押さえながら海斗が身を乗り出してくる。

「あの……私ら一回もスタジオとか、ハコとかで音合わせたことない、よね?大丈夫?」

いつも路上ライブばかり、海斗の部屋でもスピーカーから音は出せないから。私は壁に囲まれた場所でちゃんとした演奏をしたことが一度もなかった。

そんな心配を打ち明けた私を、あぁ!と海斗は納得した様子で見て。

「そっか、歌夜は初めてか!ん~まぁ大丈夫だろ!俺と紅志は経験者だから」

グッと親指を立て、ウインクすらしてきた海斗に、私は不信感を隠せず思わず疑いの目を向けていた。

「あ、その顔。信用してねぇな?任せとけ!歌夜は俺の後について来れば大丈夫だから!」

自信満々の海斗。それを半信半疑で見つめる私と、素知らぬ顔でギターを手にしている紅志。
ライブ直前なのに緊張感の欠片もない私たちだった。