ライブイベントが明日に迫った金曜の午後。結局、ドラマーは見つからなかった。

まあ中途半端に叩いてもらうよりマシだろ。

そう海斗は笑って言った。

まあ確かにそうなんだこどね、と納得しながらも私は少し残念だった。

「あ~あ、せっかくの初ライブなんだから、生ドラムが良かったなぁ~」

いつも通り海斗の部屋でソファに沈み込む私。
その横でこれまたいつも通りギターをジャカジャカ鳴らしてる紅志。

なんだかこれが定位置になりつつある。

会話はなくても最近は気にならなくなってきた。それどころか、彼の横でギターの音を聴いてるのはすごく居心地が良いってことに気付いた。

あぁ……なんかこの人、お兄ちゃんみたい。

な~んてこと考えてると私の向かいでコーラを飲んでた海斗がポツリと呟いた。

「ねぇ。歌夜ってさ、紅志に恋しちゃってるわけ?」

ん?

一時停止の私の思考。

…………。

「ぅえぇぇぇぇっっ!?」

耳を塞ぐ海斗と紅志。

「でっけぇ声」

「ななな、なに言い出すの?!へ、変なこと言わないでよ!」

私はたぶん真っ赤になってる顔で横にいる紅志の腕をドンッと押した。

「いでっ!?なんで俺?!」

腕を押さえて私を見た紅志。その顔を見たら私はますます顔が熱くなった。

「そそ、そんなんない!ないないない!ぜっったいにない!」

全力で首を振る私を見て海斗がクスクスと笑い出した。

「そんな必死に否定しなくても~、なぁ紅志ぃ?」

海斗が紅志をニヤニヤ笑いながら見れば、黒い髪をふわりと揺らして苦笑した彼は首を傾げて私を見た。