「歌夜?」
泣くまいと唇を噛み締めた私の名前を呼ぶ声が聞こえた。紅志だった。
「っ!」
とっさに紅志から左腕が見えないように体の向きを変え、笑顔を作る。
「何やって……あ、登。と、葵ちゃんだっけ?」
「そう!今日のライブ見に来てくれたんだよ!今ちょうど会って話してたんだ、ね?!」
隣にいる葵の目をジッと見つめ、私は紅志に聞こえないように囁いた。
――黙ってて。お願い!
一瞬、信じらんない、って顔をした葵の様子を隠すように、登が口を開いていた。
「ねぇ岡崎さん!今日勝てそう?ドラマーくん、大丈夫なの?」
「え?あぁ……まあなんとか、な」
「敦士って奴のバンド、ぶっ潰してやってよね!本当に許せないんだよ、アイツら」
「わかってる。アイツなんかには負けねぇよ」
登が紅志の気を私からそらせてくれているのがわかった。私はその間にドリンクを買いに行くね、とライブハウスの表側に葵を引っ張って歩き出した。
裏口が見えなくなった途端、葵の呆れた声と軽い溜め息が漏れた。



