VOICE



「ぅえぇっ!?」

腰をおろしていた椅子をガッターン、と倒して葵は勢い良く立ち上がった。

「ちょっ、葵!声が大きいよ!」

「なに言ってんのさ!歌夜、あんた絶対その岡崎さんって人に好かれてるよ!」

「で、でもさ……この前のは海斗がからかってデタラメ言っただけかもしんないしさ」

私は両手をパーにして胸の前で振った。そしたらそれを葵がガシッと掴んで私に顔を近付けてきた。

ち、近いっ!

「いや、絶対に大丈夫だ!ヤッてしまえ、歌夜!岡崎さんを誘惑するんだ!」

真顔ですげぇよ、葵。
女子高生の台詞じゃない。

「いや誘惑って、そんな」

だいたい私、この前紅志に言っちゃったよね?
バンドに恋愛なんて持ち込んでらんない、って。

しかもそれに頷いてた紅志。そういえばあの時なんだか苦しそうな表情して……!?

「やだっ!私もしかして最悪なことやらかした?!ぅわっ、どうしよう!」

今度は私が椅子から派手に立ち上がった。

こ、こんなことしてる場合じゃなーーいっ!!

「葵!私ちょっ、行かなきゃ!ごめんっ!」

バッグを掴んで教室を飛び出した私の後ろで、溜め息をついた葵の声。

「頑張れよーチューくらいカマしてやれ~。……てか、またこのパターン?」