ポカンとしてる紅志が海斗の胸元から手を離すと、苦笑いを見せる海斗は紅志のその右手を両手でガシッと掴んだ。
その手の甲、長い指、それから爪。そっと確かめるように。触れた。
それから口を開いた海斗。
「なあ紅志。この手はさ、一つしかないんだ。わかる?」
「あ?あぁ……」
「だからさ、大事なんだよ。紅志の手。この手が、指が、あんなくだらないヤツを殴ったせいで怪我したら……」
私にも海斗の言いたいことがなんとなくわかった。
紅志も気付いたようだ。はっとした様子で唇を噛んでる。
「わかるか?お前の出す音は、俺達の音なんだよ?お前がこの手を使ってケンカするってことは、俺達の音を壊すかもしれないって……そういうリスクがあるって……」
そこまで一気に話してから海斗はやっと紅志の手を離した。
解放された手のひらをジッと見つめた紅志は、やがて真っ直ぐな眼差しを海斗へ、そして私にも向けた。
「悪かった、ごめん」
そう言って自分の手のひらをギュッと握り締めた。
「……もう、ケンカは、しないから」



