ガタンと椅子を鳴らしていきなり立ち上がった私に、二人が怪訝な顔を見せた。
「どうした、歌夜?」
葵の問いかけには答えず、私はバッグを掴む。
「ごめんっ!帰るっ!」
「えっ!?ちょっ、歌夜……」
目を丸くする葵と登を置き去りにして、私は階段をあっと言う間に駆け下り、のんびり開く自動ドアに苛立ちながら通りへと飛び出た。
今さっき見つけ出した顔を捜す。
そしたら20メートルほど先に、彼はいた。
「いたっ!」
私は駆け足でそっちへと急いだ。
雑踏の中、人より少しだけ飛び出てる頭を目掛けて駆け寄り声を掛けた。
「海斗!」
「あれ?!歌夜だー。なにしてんの?」
ふわふわの髪を揺らして海斗は振り返った。にこにこした顔が私を見る。
あうっ。また天使の笑顔!
「か、海斗こそなにしてたの?」
「俺?んー散歩?」
首を傾げて答える。
「散歩?って、なんで疑問形?」
私がつっこめば。
「ん~なんか……浮かびそうだったのよ、曲が。で、歩いてたわけ」
説明になってる、のか?



