あの日。紅志の事を初めて名前で呼んだ時から、彼の顔がマトモに見られなくなった。
いつもは隣に座ってたって、顔を見合わせて話してたって、特に何とも思わなかったのに。
ここ数日は音合わせも上の空。
ベースをミスってばかりで海斗は苦笑いだし、珪甫は罵声を浴びせるし、ヘコむしかない。
だって、気付くと紅志の様子を盗み見しちゃって、練習が手につかない。
ほんと、どうしたらいあんだろ……。
「歌夜、単刀直入に言おう。それはキミ、恋煩いってやつだ」
放課後、葵に連れられて行ったファーストフード店で、彼女はポテトで私の鼻先を指して言った。
「こ!?ここっ、こ、こ……っ」
「鶏か?」
「違うっ!こ、恋煩いってなに?!」
私がアイスティーを吹き出しそうになりながら顔を赤くして叫ぶと、頬杖つきながら葵はポテトを口へ運んで言った。
「へ?そりゃあ好きな人のことばっか考えて、な~んも手につかなかったり、溜め息ばっか……」
「そんなこた知っとるわ!私が聞いたのは、誰が誰に恋してんのって話!」
葵の言葉を遮って私がまた大声を出した、その時。
「あんたが紅志に、に決まってんじゃん」
「ぅえっ!?」
急に真後ろから声がして。
「の、登!?」



