「さて、帰るか。悪いな、俺の勘違いに付き合わせて」

間もなくトイレから戻ってきた紅志は、いつも通りのクールなお兄さんに戻ってた。

さりげなく伝票を手にレジへ向かう。

さっきの泣きそうな顔、何だったんだろう?

少しだけそれが気になりつつも、私は彼の後を追ってレジへ向かった。
財布を出し、自分の分を払おうとしたら。

「あ、いいよ。これくらい、付き合ってもらったのは俺だし」

「え、でも……」

「ほら、財布しまって。俺も男なんだから、少しくらい格好つけさせろ」

ニッと口元を上げ、言う紅志にお礼を言って私は財布をバッグに戻した。

「ていうか岡崎さんは、格好つけなくても充分カッコイいですよ~」

店の自動ドアを出た後、私は紅志の広い背中に向かって言った。

その肩がぴくりと上がったのは気のせいだったのか、肩越しに振り返った紅志は小さく呟いた。

「……サンキュ」

この時の紅志の表情は、逆光になっていてわからなかった。





その後私は紅志に家まで送ってもらった。遠慮したのに。“女の子一人で夕暮れ歩くのは危ない”って言われてしまった。

空が夕焼けに染まる中、別れ際に紅志は少し躊躇いがちに口を開いた。

「歌夜。一つ、頼みがあるんだ」