「何?」
いつもと変わらないちょっと生意気な顔で私を見る登に、私はなんて言ったらいいのか分からなくて。
「えっと……大丈夫?その、最近学校とか……」
歯切れの悪い私に、また苦笑いを見せた登は肩をすくめた。
「相変わらずだよ。まぁ、歌夜のおかげかどうか、暴力は少し減った、かな?一応お礼は言っとくよ、サンキュ」
それだけ言って、じゃぁね、と歩いていってしまう。
その華奢な背中が雑踏に紛れてしまった後で、私は自分の頭をガツガツと拳で2回、叩いた。
「私の、ばか……」
最悪だなぁ、私。
こんな、私のちっぽけな悩みよりも彼の悩みをもっともっと聞いてあげるべきだったのに。
きっと、たくさん悩んでるのに……。
私はしばらくその場に突っ立ってた。
私が思ってるより、彼の心の闇は深いのかもしれない。
漠然と、そう感じた。
夏が間近の、暑い日差しの中、私の心はどこか暗く沈んでしまっていた。



