溺愛されてもわからない!


「今はショッピングモールからの帰り道」

『じゃ、大きな道路で明るいね』

「うん。あのね雫さん、もう一度だけ話を……」

『それは後からでいいから、いい。私の言う事をしっかり聞いてね』
興奮する自分を抑えるような声をしていた。
どうしたの?いつもと違う。
電話をしながら私の足は路地に入る。
ちょっと入っただけなのに
すごく暗いんだね。冬の夜だから特に暗くて寂しく感じる。人も通ってないし。

「おねーさん。ありがとう」
革のブルゾンにジーンズの若い人が、私に暗がりから声をかけて手を伸ばす。
業者さんにしては服装がラフ。
バイトなのかな若いし。

私はリンゴを渡そうとして手を伸ばし、耳元で雫さんの声を聞く。

『いい。なるべく大きな明るい道路を通って帰って。タクシー拾ってもいい。お父さんに迎えに来てもらえないかな。夢でもいい。お願いだからひとりで歩かないで』

「雫さん?」

若い人にリンゴを渡すと
リンゴじゃなくて
私の手をギュッと強い力で捕まれた。

何?これ。
そしてバンの後ろから
もう2人
似たような服装の若い男の人が現れた。

ニヤニヤ不気味に笑ってる。

『中西と松田がさっき話してた。先輩にすみれを拉致させようって、まさか本当じゃないと思うけど、万が一って事がある。お願いだから……』

雫さんの声が途絶える。
なぜならば
目の前の男に私の携帯は奪われ
叩き壊されたから。

「しっかり壊せよ。GPSバレたらヤバいからな」

愛用のスマホ。
今年の春にやっとお母さんに買ってもらったスマホ。
お母さんと一緒に100円貯金して
やっと買ってもらったスマホ。

底の厚いブーツに踏まれ
冷たいアスファルトに粉々にされている。