溺愛されてもわからない!


ふたり台所に立ってる。

お母さんは朝食の用意をして
和彦さんはお母さんの隣で
ほぼ邪魔って感じだけれど
マグカップを持って
優しそうにお母さんを見つめて
会話をしている。

お母さん。

幸せそう。

職業柄なのか
背後に気配を感じ
和彦さんが一瞬鋭い目をして後ろを振り返り、私と気付いて顔が緩ませお母さんから一歩離れた。

「すみれさん。おはようございます」

「すみれ?おはよう。ずーっと寝てたけど大丈夫?お腹空いたでしょ」

ふたりに言われて

「おはようございます。うん、ちょっとお腹空いた」

って
さっきまでの勢いが
しゅるしゅるしゅるって
空気が漏れた風船みたいに

どこかに飛んで行ってしまった。

昨日の田中さんの話を思い出す。

和彦さんはお母さんが好き。

きっと
お母さんも
和彦さんと同じくらい

和彦さんが大好きなのだろう。

シングルマザーで沢山苦労したお母さん。

お母さんの幸せを邪魔しちゃいけない。