次の日の火曜日は朝練があったから、神社には寄らずにまっすぐ学校へ向かったが、次の水曜日は神社に向かう。


澤口さんの自転車があった。来てるみたい。


彼女はベンチの右端でスケッチブックを広げて、海の絵を描いていた。

俺に気づくと焦って絵を隠す。


「おはよ。絵、海だよね。見せてよ」

「まだ途中だから」

そういって恥ずかしそうにしていたけど、結局見せてくれた。

吸い込まれそうな濃いめの水色の空に、深い海の青色。


「さすがだね」

「昨日から描いていたんだ。今日は丸尾くん来るだろうから来るの迷ったけど……

ごめんね、天気よかったからうずうずして、結局来ちゃった」


「なんでさ、俺に遠慮なんかしないでよ。むしろ絵を描くとこ、こっから見ててもいい?邪魔しないからさ」

「ええっ?それはさすがに恥ずかしいよ」


本当に恥ずかしそうにしているのがわかる。筆を持つ手が震えている。

「分かったよ、出来たら見せて」


俺も読みかけの本を開いた。

必要以上の言葉は交わさずに、ベンチの端と端でお互いに一人の時間を過ごす。これが俺らの毎朝の習慣になった。


だけど過去の経験や感覚で、俺はこの頃からもう予感はしていた。


きっと恋に落ちる。


……彼女が俺に。