どうしようもないほど、悪人で


私は、物だ。

遊ばれもした。
壊されもした。
捨てられもした。

どうしようもないほど、
余すところがないほど、
すくう箇所もないほど、

攻め続けられて、
痛めつけられて、
もてあそばれて、

私は、紛れもない物だった。

物でしか有り得ない。物と思わなければやってはならない非人間的行為の数々。

私は“生まれ方を間違った”のだ。

どうして物に感情をつけたのか。痛みをつけたのか。間違っていたから正しくあろうとしたのに。

「……ひぐっ、な、んでぇ……」

今更、こんな。

「こ、んなの……」

どうして思い出させるの?

「やだ、いや……っ、もう、も、う」

戻れなくなった。
進むことしか分からない今の体のように、溢れ出す悲しみは止まらない。

“よくある話”、だ。
気まぐれに助けられ、やはり手に負えなくなったからと捨てられる。優しくされ捨てられた物は絶望し、追いすがる。止められることもないのに。

「戻っ、て、おねが……うぅっ」

戻ることは出来ないからこそ、行ってしまった人にお願いする。

もうどこにもいないというのに、願わずにはいられないんだ。

誰か、助けに来てくれる。

こんなにも泣いて、こんなにも苦しんで、こんなにも叫んで。黒い物しかないような世界に取り残されて、自分一人じゃどうしようも出来ないから、誰かを求めて、誰も来なくて、また泣いて。

「……、あぁ」

誰も、来ない。

乾いた涙の上にまた涙を流す。
進む体は止まった。仰向けになり、空を見上げる。

今日もどこかで男が殺したであろう人たちの命が多くあった。以前よりも雲はなく、しかもか月が世界を呑み込むように大きく輝いていた。

「私は、何をしているのか」

呼吸をしたくない。
このまま一生の眠りにつきたい。

「もう、終わりたい」

どんな扱いを受けても、今までこうして死に損なってきたのに。どうしてここまで苦痛が酷いのだろうか。

「そっか」

恋は魔法なんだった。
おとぎ話の定番だ。化け物も、無機物も、恋によって人間になる。

殺人鬼も、ただの物も、“何かを愛してしまって泣いてしまう”。

涙は人間の証だ。

生まれ方を間違った。でも、“これ”が正しいあり方のはずなんだ。

「男に捨てられて、泣くなんて」

女々しく無様で、本当に人らしい。
ここは一つ、男に恨み辛みを持って、死してもなお呪い憑くべきかとも邪悪なことを考え、笑った。泣きながら笑った。