どうしようもないほど、悪人で


「俺を救えるのは、俺しかいなかった」

他人は助けに来てくれない。その答えにたどり着くのは当たり前だ。

「なら、私も私しか助けられませんが」

「“だからだよ”」

一言。目が合った。

「だから、助けた。俺にはいなかったから。お前見た瞬間にさ、前のこと思い出しちまって、あの時願った『誰か』になってみてえと思ったんだよ。そこから一気に、俺がされたかったことが湧き出てきたわけ。救われたいのはもとより」

額と額がこつんと合わさる。

「『誰か』に愛されたかった」

イタズラしてやったぞ、な笑みをしながら離れる男。

子供みたいと思いながら、合わさった額をさする。

「……」

救われたいという言葉は、あまりピンと来なかったけど。

「愛されたかった……」

どことなく、この言葉が胸に残る。

ペット以下の玩具、見せ物。そんなものに愛など湧かないし、ないからこそそんなものになった。

もとより、私も誰かを愛したことはない。

「あ、言っておくけどな。俺は誰でも救うわけじゃねえぞ。今まで何人もお前みたいな奴は見てきたし。ほんと、あの日はええと、電気?みたいもんがさー、走ってよ。昔のこと思い出すし、そうしたら助けにも行きたくなるし、気付いたらお前とこうしてる。一目惚れだ」

恋って魔法なんだ。の台詞が付け足された気がした。

「それでもあなたの恋が実らなかったら、助けた意味がないではないですか」

「はあ?あるに決まってんだろ」

ふと、雲の切れ間から星を見た。
男が殺しをした因果か知れないが、今にも零れ落ちそうな星々の中で。

「お前が助かる。それで十分だ」

流れ星よりも、綺麗に笑う彼を見た。