どうしようもないほど、悪人で


(四)

この男は、悪だ。
よっての話、正義に罰せられる。

「これ取りに行ったんだよ。前、本の話しただろ?殺しに入った豪邸にまた寄ったら、自警団と鉢合わせしちまって。いつもなら適当に終わらせるけど、持ってた本血で汚したくねえから庇いながらやってたらヘマしてな。檻に入れられたんだけどよぅ。お前が餓死しちまうと思って、檻ぶっ壊して逃げてきたから時間かかっちまって。ーーなあ、だから。そろそろ布団から出て来てくれねえか?」

正義に罰せられなかった代わりに私に罰せられればいい男は、つんつんとつついてくる。


昨晩からずっと、頭まですっぽり布団のみの虫をしているからの行為だ。いつもなら、起きろと布団を引っ剥がすのだけど、今の状態が眠いからでないとは分かりきっている。

「悪かったって。こっち見ろって。本あるぞ。食べ物もあるぞ。お前の好きな物がたくさんーーぐふっ」

足で蹴った。
適当ながらも、効果てきめんな場所に当たったらしく男の悶絶音が聞こえてくる。

「ーーぷっ、ふははっ。ほんとお前、ぜんぜんちげえよ」

「なんで、笑うのか理解不能なのですが」

さすがに顔を出す。
片や、大笑い。片や、不服な顔をして見つめ合った。

「怒ったりすんのが可愛く見えてさぁ。いや、ほんとは悪いことなんだけど。生きてるって感じがして、安心する」

ほらよ、とリンゴを貰った。
かじる。まあまあだ。

「怒ることが出来んなら、笑うことも出来んだろ。見てーんだけど」

私の手にあるリンゴにかぶりつく男。

「やれと言われて出来るものではありませんよ」

「だな。まあ、気長に待ってんよ。どうせ、いつまでも一緒いんだから。そうだ。俺がいなくて不安なら、お前も出かけようぜ。殺しまくればいい」

「足が飾りの人には無理難題です。下手すれば、違う誰かに誘拐されますよ」

「げっ、それはナシだな。じゃあ、なるべく早く帰ってくるから」

りんごをまたかじろうとする男の邪魔をする。

口には口で対応。離したあと、いつぞやの言葉を口にする。

「以前話した、あなたが私から離れる理由を覚えておいでで?」

ならばこれで解決。
離れないでほしいと、身を預ける。

「かなわねえよ、お前には」

「恋って魔法ですからね。よくある話で」


「俺たちにしかない話だな」



彼は、悪だ。私は、物だ。
他人から見たからその事実は変わらない。
理不尽で不条理、優しくない厳しいばかりの世界はそのまま。

けれども、今こうしている二人だけの世界には無縁の産物。

本当に、どうしようもないほど愛おしい人なんだーー