さて、同室の患者は、一人目は、蕎麦うちの職人だったそうだが、右の利き腕をそば粉をかき混ぜる機械に持っていかれ、肩の下からざっくりと切られたそうだ。

それも、2回も!

すでに、僕よりも1ケ月以上前に手術をしたらしいが、肩の下のところがザックリとした大きな傷と親指から腕の方に、ザックリと2本大きく切られている。

五本の指はグローブの大きさになっていて、神経も無い状況なので、動かせる状況にはない。

これだけ大きく切られていると、夜になるって傷口が相当疼くそうで、寝ていられないらしい。

さらに、利き腕なので、寝返りもできず、一旦座りなおしてから向きを変えているらしい。

寝る時に、大きな包帯ごと腕を吊っているのと比べると、大黒柱の方がまだ幸せかも知らないと思う。

しかし、彼から見ると指先に近い部分を切断した方が、痛みが強いと思っているようだ。

「大変ですね!痛みますか?」と聞かれる。

もう一人は、整形外科で入院していて、若い人で太ももに痛みがあり、痛くて歩けない。

治療は、腰の背骨から直接神経に注射を打つブロックと呼ばれる治療を立て続けに4回行っても、痛みが消えない。

本人は相当痛いらしく、病室ではもう嫌だと言っていた。

命中させられない担当医に不満を持っている。

本人以外にも、もう嫌だと思っていたのが、担当の若い先生だった。

患者の話しだと先生から患者自身に、「これ以上の治療は僕にはどうして良いのか判らないので治療方針が立てられない」と言われたそうだ。

転院が可能か打診されたと落胆しながら病室に帰ってきた。

その日は彼の「なぐさめ会」となった。

「なぐさめ会」と言っても、酒も食事も無いので、愚痴を聞いてやるだけなんだけど。

しかし、若い先生だからなのかストレートに自分の能力の限界に気付いた場合、患者を転院させる告知ができるとはある意味では凄いことかも知れない。

と思っても、彼にはそんなことは言えずに、無責任な先生だねと話を合わせるしかなかった。

僕の場合、彼のように原因不明の痛みとは異なり、完治すれば痛みは消えるのだから。