大黒柱は、退院してすぐの頃に検査課も任されたため、指の痛みが消えないのに仕事も相当忙しくなった。

指のことがまだまだ気になる頃だったので、寝る時にも気を使っていた。

寝相が悪いので、寝ぼけて指が下敷きにならないように、寝る時には左手を布団から真横に出し、手の下にマクラを置いて、タオルを被せて寝ている。

大黒柱の右側は窓で屋外にはベランダがあるので、夜中に跨いで通ることは無い。

妻は、大黒柱の左手側に寝ていても、寝相が良いので、大黒柱は心配はしていない。

大黒柱のいびきがうるさいので、妻は早く寝るようにしている。

その日も、妻が先に寝ているところに、壁にある電気のスイッチを切り、真っ暗の中を手探りで妻を跨いで、自分の布団に潜り込んだ。

数時間が経過した頃、意識の向こうから、突然やってきた。

それも真夜中に、「う~~う~~!」と低い声で、うめくような声が遠くの方から聞こえる。

段々と声が大きくなり、瞬間的に隣からだとわかった。

何か獣でも居るのかと隣を見ると布団が丸まっていて、小刻みに震えている。

隣には妻が寝ているはずだし、普段は寝反りも打たない方なのに、布団の中のから「う~~う~~」と聞こえる。

ただ事ではない。恐る恐る「大丈夫か?」と声をかけた。

「大丈夫じゃない!」「寒い~、痛い~~う~~」とっさに起き上がったが、どうしたら良いかわからない。

「病院に電話してみようか?」と聞くと「うん~」と答えた。

「うん」なのか、「う~~、う~~」なのかはっきりしなかったが、夜中なので緊急医療体制のある医療センターに電話。

当番医が直接出たので、「寒い~、痛い~~、う~~と、言いながら海老のように丸くなって震えています」と、妻の状態の説明をした。

すると「痛いのを通り過ぎて、寒く感じているのでしょう」と言われたので、妻が言っていた「寒い~、痛い~」という謎が説けた。

そんなことを考えている場合ではない。

「どうしたら良いですか?」と聞くと、「一時的な場合もあるので、毛布を何重にも着せて暖かくして様子を見てください」と言われた。

「とりあえず、温かくしてみます」と言って電話を切った。